ツーバイフォー工法の壁にCLTの屋根を載せた平屋の保育所

特集 木材の可能性を拓くJAS構造材(5) 日経 xTECH Special


JAS材の利用で確かな品質を確保

ツーバイフォー工法(木造枠組壁工法)の壁に、CLT(直交集成板)の屋根を載せる木造平屋の保育所がこの4月に開所する。品質管理などの観点から、ツーバイフォー製材からCLTまで構造材にはJAS材を用いる。設計を担当する三井ホームデザイン研究所の川中彰平氏に、設計の意図や木材の選び方、JAS材を使う意義などを語ってもらった。
 名古屋市の東部、整然と区割りされた住宅地の一角で、新しい保育所の建設が最終段階に入っている。広さ約950㎡の敷地に、延べ面積400㎡の木造平屋の建物がまもなく完成する。切妻の大屋根が架かる建物内には、6つの保育室を始め、事務室、厨房などが入る。

 建物の設計・施工を手がけるのは、大手ハウスメーカーの三井ホーム。同社は近年、中大規模木造建築の分野にも積極的に取り組み、実績を伸ばしている。
 「この保育所の構造は、ツーバイフォー工法(木造枠組壁工法)でつくる壁に、CLT(直交集成板)の屋根を載せる構成です。2017年の国土交通省告示により、ツーバイフォー工法の壁にCLTの屋根を載せる場合、簡易な構造計算で設計できるようになり、CLTを使いやすくなりました」。保育所の設計を担当する三井ホームデザイン研究所施設設計部先端木造設計室の川中彰平氏はそう説明する。川中氏が所属する先端木造設計室は、2020年1月に立ち上がったばかりの新しい部署だ。この保育所の設計も、木造の先端的な構造に取り組んでいる。

 川中氏が言う告示とは、2017年9月26日に公布・施行された国土交通省告示第867号における「枠組壁工法の床版及び屋根版に直交集成板(CLT)を使用するための基準整備」に係る告示を差す。告示以前は、ツーバイフォー工法でCLTを用いるためには高度な構造計算(限界耐力計算)が必要だった。この告示によって、より簡易な構造計算(許容応力度計算)で、床や屋根にCLTを使うことができるようになった。


●シンプルなCLTの切妻屋根
上は、西側外観のパース。ツーバイフォー工法による壁に、CLTで構成する切妻の大屋根が載る。建物の軒は、屋根のCLTを1.2m持ち出すもの。軒天はCLTの現しとする。下は、内観パース。避難経路に当たらない廊下の一部は屋根のCLTを現しとする(資料:三井ホーム)

●建築概要/所在地:愛知県名古屋市/設計:三井ホーム、三井ホームデザイン研究所/施工:三井ホーム/構造:木造(壁:ツーバイフォー工法、屋根:CLT)/階数:地上1階/敷地面積:950.03㎡/建築面積:395.29㎡/延べ面積:385.22㎡/開所:2020年4月(予定)

できるだけCLTを現しで使用。前面道路からも見える木質感

 「この保育所は初めから木造で設計しました。建物は使い勝手のよい平屋とし、CLTの特性を生かしつつツーバイフォー工法らしい建築空間を提案しました。パネル形状のCLTは屋根に使いやすい木質建材です」と川中氏は話す。

 切妻の大屋根を構成するCLTは、標準サイズが幅1.5m、長さ3〜4mのパネル形状。これによって7m近くスパンを飛ばした開放的な内部空間を生み出している。使用するCLTは、スギ材による5層5プライ、厚さ150mm。合計で約60㎥のCLTを使用する。

 内装制限や、天井にカセット式空調を設置する関係で、屋根に使うCLTは基本的には見えなくなるが、一部では現しとして子どもたちが過ごす空間に木質感を漂わせる。その1つは、避難経路に当たらず、内装制限のかからない廊下の一部。もう1つは、建物外周の軒天だ。屋根のCLTが1.2m張り出す軒天を現しとする。

 「せっかく使うならばCLTならではの構造として、また可能な範囲でCLTを現しにして木質感を表現したいと思いました。周辺は緩やかな傾斜地で、敷地の南側ほど前面道路より高くなるので、道行く人たちが見上げると軒天のCLTがよく見えます」と川中氏は話す。

●CLTの屋根は一部で現しに
今年1月のCLT建て方工事の様子。ツーバイフォー工法により施工した壁に、屋根となるCLTを吊り込んで架けていった。CLTの標準サイズは幅1.5m、長さ3~4m。岡山県の銘建工業で製作したスギ材のCLTを約60㎥使用した
(写真:三井ホーム)
建物外周の軒は、屋根のCLTをそのまま1.2m持ち出したもの。軒天には仕上げ材を張らず、現しとする。
CLTの屋根を架け終えた躯体の内観。このあと天井を張るが、一部はCLT現しの勾配天井とする

品質管理上JAS材は必須。森林資源や林業を守る意義も

 ツーバイフォー製材やCLT、構造用合板など、この建物の構造材にはJAS材を採用した。「この保育所に限らず、三井ホームとしては確かな品質を確保するためにJAS材の使用を基本にしています」。そう話す川中氏は、さらに森林資源や林業にも目を向けて、木材利用の意義をこう語る。「住宅だけでなく非住宅の分野でも木造を推進することで、森林資源の活用と循環に貢献でき、さらに後継者不足などの課題が指摘される林業の活性化にもつながると思います」。

 この保育所の躯体工事は、ツーバイフォー工法による壁をつくった後、今年1月半ばにCLTの建て方工事を終えた。4月の開所に向けて、現在、工事は大詰めを迎えている。

 「クライアントも、CLTという新しい木質建材の採用や、木材利用が社会貢献につながることに魅力を感じてくれたと思います。今後も先端木造設計室では、ツーバイフォー工法をベースに、CLTやLVL(単板積層板)といった新しい木質建材も活用しながら新しい木造建築にチャレンジしていきたいと考えています」と抱負を語る。
 
※役職は取材時のものです。

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