JAS製材が拓くニッポンの木造

瀬野和広 瀬野和広+設計アトリエ

国産材を製材で利用する意味

 私の設計事務所では、住宅・非住宅を問わず、数多くの木造建築を設計しています。基本的には集成材ではなく製材(無垢材)を使用。ただし、国産材を積極的に使用するようになったのは2010年以降で、それ以前は輸入材に頼っていました。

 輸入材を使っていた理由の1つは品質です。輸入材は乾燥が丁寧に行われているため丈夫で、木目も美しく、真壁納まりにも最適。一方、昔の国産材にはあまりいいイメージをもっていませんでした。

 特に、含水率が100%を超えるものが多いスギの乾燥は技術的に難しく、時間もかかります。ところが、当時の製材所の多くはいち早く市場に出荷するため、高温短時間での乾燥を行っていました。しかし、スギを急激に乾燥すると、極端な内部割れによる強度の低下を招いたり、表面の変色を招いたりします。その過程で、木の細胞壁[※]も劣化します。そんな材を、丸太からそのまま切り出した製材と呼んでよいのか。常に疑問に感じていました。

 しかし、10年前の天竜杉との出会いで私の認識は一変しました。天然乾燥材(AD材)を特注品ではなく流通材として出荷していると聞き、葉枯らし天然乾燥を行っている製材所を訪ねてみたのです。スギの天然乾燥は最低2年かかります。果たしてビジネスとして成立するのか?

 半信半疑のまま製材所を視察すると、本当に天然乾燥を行っていました。品質は輸入材に勝るとも劣らず、価格は国産材のKD材とほぼ同等。ならば、日本の山林で育った木材を使用すべきではないか、との思いを強くしたのです。
 近年では、人工乾燥技術も格段に進歩しています。高温乾燥(例約120℃)と中低温乾燥(例約40℃)を組み合わせる手法が浸透した結果、内部割れや表面の変色、細胞壁の劣化などの不具合が抑えさえられるようになり、スギの製材を使用できる環境が随分整備されてきました。

 では、スギやヒノキなどの国産材を製材として多用すると、客観的に見て、どのようなメリットが生まれるのでしょうか?それは、地域経済の活性化です。

 木材というのは、丸太から、製材などの木材製品として加工されることで付加価値を生み出します。しかし、集成材などは大規模な生産設備が必要となるため、加工できる場所、地域はどうしても限られてしまいます。他方、製材であれば地元の小さな工場でも加工が行えますので、地域内で経済がより活性化するのです。

 具体例を紹介しましょう。私の出身地である山形県は、「やまがた森林(モリ)ノミクス運動」という活動に'13年から取り組んでいます。“川上”の林業、“川中”の製材業、“川下”の建築業や発電事業までを一体的に捉えた、緑の循環システム構築を目的としたもの。条例の制定などによって、再造林や、非住宅の木造化・木質化などを推進しています。私は'19年に、やまがた森林ノミクス大使を仰せつかり、地元の工務店と協力しながら、県産材を使用した家づくりのサポートをするなど、具体的な活動を開始したところです。

設計者の関心が変化を生む

 ただし、地元で生産された製材を木造建築で利用するといっても、非住宅の場合は一筋縄ではいきません。確認申請時に構造計算書を添付する必要のない住宅とは異なり、非住宅では、構造計算を正確に行い、確認申請時にその妥当性を証明する必要があります。構造計算の実施を前提として、設計者は次のように対処すべきでしょう。

 まずは、やみくもにスパンを飛ばさない、という意識をもつべきです。スパンを無理に飛ばすと、特注品によるコストアップにつながります。体育館などでなければ、一定の間隔で柱を立てて、それをインテリアの要素として取り込んでみる、という割り切りも必要でしょう。'19年に完成した事務所+カフェの「大工館II」(香川県)では、構造体のすべてに香川県産のヒノキ製材を用いました。小屋梁に使用した製材の最大断面は120×240mmと標準的。スパンも5m(小屋組)しか飛ばしていません。

 次に、品質が確かな構造材を指定すること。材料のたわみにくさを示すヤング係数と含水率が明確に表示されたJAS製材(機械等級区分構造用製材)を用いて構造設計を行えば、建物の構造性能をより明確に判定できます。
「大工館II」(左)と、瀬野氏が1990年代に設計した木造建築(右)の比較。香川県産のヒノキ製材を用いた「大工館II」は、木造住宅の雰囲気に近い設え。一方、湾曲集成材を用いた木造建築は、鉄骨造などの雰囲気に近い
 ただし、JAS製材の工場はまだ数が少なく、仕方なく無等級材で設計せざるを得ないケースが多いという実態もあります。この状況を変えるには、“川下”にいる設計者が、構造材についてより強く関心を抱くべきだと思います。構造材の指定を工務店・プレカット工場任せにしてはいけません。

 そのためには、“川上”“川中”とのコミュニケーションが不可欠。「設計者よ。山に来い!」。特に若い設計者には、この言葉を伝えたい。私の設計人生も山が変えてくれたのですから。
瀬野和広[せの・かずひろ]/瀬野和広+設計アトリエ
1957年山形県生まれ。大成建設設計本部勤務の後、瀬野和広+設計アトリエを開設。2009年~東京都市大学都市生活学部非常勤講師を務める。良質な国産材を使用した木造住宅・施設の設計を数多く手がけている。主著に『これからの木造住宅のつくりかた』(エクスナレッジ)がある

(企画協力=全国木材組合連合会 写真=水谷綾子)

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