JAS構造材の未来と可能性

JAS製材、なかでも機械等級区分構造用製材は、木造建築に欠かせない木材の品質基準をもつ構造材としてもっと普及すべきもの。
今回は、木造建築に精通する建築家 古川泰司氏と構造家 山田憲明氏が、機械等級区分構造用製材の重要性と可能性について語る。
(企画協力=全国木材組合連合会 取材協力=西参道テラス/設計:石川素樹建築設計事務所 写真=水谷綾子)

JAS製材にはもっと普及してほしい

古川
泰司
 長年、木造建築を設計していると不思議に感じることがあります。それは、多くの建材はJIS規格(日本工業規格)という共通基準での品質表示が当たり前、かつ設計者もそれを求めている一方、木材に関しては、そうした共通基準の品質に関心が低い、ということです。これは“ものづくり”のあるべき姿としては異常。生産者も、自分が生産した木材が一番よいと口をそろえてアピールするのですが、その根拠が示せない場合が多いのです。木材の品質を保証する国の指標がJAS規格(日本農林規格)ですが、多くの設計者はJAS規格に関心がなく、無等級材(JAS規格以外の材)を無頓着に使用しているのが実態です。当然、ハウスメーカーやゼネコンは、品質が明らかな集成材や輸入材を標準的に採用するので、結果として国産JAS製材の流通量はいまだに少ない、という悪循環に陥っています[※1]
山田
憲明
 私も、JAS製材にはもっと普及してほしいと思っています。昔は、限られたコミュニティ内の信頼関係によって木材が扱われていました。しかし、木材が不特定多数の人々に扱われるようになった現在では“共通言語”をもつことが重要です。しかも、性能やトレーサビリティに対する世間からの要求は、年々厳しくなる一方です。
古川
 ただし、悲しい現実ですが、JAS製材を入手するのは容易ではありません。国内製材所の工場数は現在、約4千800ですが、JAS製材を生産できるのは約600。構造用のJAS製材は目視等級区分構造用製材と機械等級区分構造用製材[※2] に大別されますが、部材のたわみにくさを示すヤング係数(E)や、製品の形状安定性を推し量る含水率が明確に表示される機械等級区分構造用製材を生産できる製材所は約70にとどまっています。
山田
 木材は生物材料であり、性能にバラつきが多いものです。スギのヤング係数はE70程度から、E50を下回るものやE90を超えるものまであります。無等級材では、こうした性能のバラつきが表示されません。機械等級区分構造用製材であれば、大きな荷重がかかる部材にはE90やE70のもの、荷重があまりかからない部材にはE50のもの、と使い分けできます。私が構造設計した事例としては、「大分県立武道スポーツセンター」(設計:石本建築事務所)があります。木材供給者や研究者らと対話を重ね、ヤング係数と含水率の組み合わせで4種類に区分した木材を適材適所に使っています。
 構造設計の信頼性という意味でも、機械等級区分構造用製材には大きなメリットがあります。ヤング係数と基準強度が保証されているのは、構造設計者としてはとても安心です。建築基準法では無等級材の基準強度が示されていますが、これに準拠して構造計算を行う場合も、自主的に木材のヤング係数を測るなど、何らかのグレーディングが肝要だと考えています。加えて、JAS製材であれば、無垢材の柱・梁を現しにした木造準耐火建築物の設計が可能になります[※3]
古川
 この利点を生かしたのが、燃え代設計で柱・梁を現しとした、木造45分準耐火建築物「わらしべの里共同保育所」(埼玉県)です。埼玉県内の製材所を窓口としてJAS製材を調達。埼玉県産材利用率84%を達成しています。全数機械グレーディングを行う同製材所は、ヤング係数の出現割合のバックデータを持っているので、調達はスムーズに進みました。ただし、同製材所から調達できるのは正角材のみ。平角材と長尺材については他県の製材所に依頼しました。
 この事例から学べることは、1つの製材所ですべてのJAS製材を調達できるわけでは必ずしもないということ。設計者が主体的に製材所のネットワークにかかわる必要があります。もしくは、専門の“木材コーディネーター”を立てて生産地とのつながりをもつことが肝要です。
山田
 構造設計者の立場でいえば、木造の構造設計ができる人材育成も大きな課題です。RC造やS造と比べて、樹種だけでなく木質材料や接合方法も多岐にわたり、木造に熟知した人材が不足しています。一方、機械等級区分構造用製材がもっと流通すれば、構造設計者が製材を使った木造にもっと取り組みやすい環境が整うのではないでしょうか。
古川
 幸いにも、国は建築物の木造化・木質化を推進しています。2019年は大きなターニングポイント。6月に施行予定の改正建築基準法で木造準耐火建築物の可能性が一気に広がるからです。設計者は、今まで以上に木材およびJAS製材に関心を抱き、JAS製材の需要を喚起すべきだと思います。その声が大きなうねりとなれば、JAS認証工場も増加するでしょう。
山田
 スギやヒノキの人工林が高齢級化[※4]するなか、大径材が売れず、細かくカットされて安価に取引されているという現実があります。大きい木をそのまま大きく製材して使う、というのが構造設計として合理的です。柱材であれば180㎜角や240㎜角。これらが機械等級区分構造用製材として広く流通すると、荷重やスパンの大きい非住宅建築にも製材を使いやすくなります。さらに、大断面のJAS製材は燃え代設計に対応しやすいので、都市部でも軸組を現しとした木造建築が増えるでしょう。こうした木造建築こそが、生産地や小規模な製材所・設計事務所・工務店の生業を支えるのです。
 加えて、最近では、高度にシステム化された日本の木造文化(軸組構法)に関する海外からの評価が非常に高まっています。輸出も視野に入れた国産材の利用拡大を考えるうえでは、品質・性能の確かな機械等級区分構造用製材の重要性が高まるとも考えています。
対談が行われたのは西新宿にある石川素樹氏設計の「西参道テラス」。木造(RC混構造)の45分準耐火建築物で、永田木材(静岡県浜松市)が生産した天竜杉の格子パネルと羽目板をファサードに使用している。“都市木造”の可能性を感じさせる建物として複数の賞を受賞しており、2018年11月には「DFA Design for Asia Awards 2018」(主催:Hong Kong Design Centre)で Bronze Awardを獲得した

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