「銀座の中心に森をつくる」先駆的な2時間耐火木造商業施設の挑戦 ヒューリック×竹中工務店 |日経 xTECH Special

不動産デベロッパーのヒューリックが、東京・銀座に先駆的な耐火木造12階建商業ビルの開発を進めている。
この挑戦的なプロジェクトの背景と、建設を可能にした耐火構造材の技術や木造建築への想いを担当者にうかがった。

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 東京・銀座8丁目に、2時間の耐火性能を有する木造商業施設の建設が進んでいる。ヒューリックが手がける「HULIC &New GINZA 8」(地下1階・地上12階建)だ。竣工予定は今年10月。設計施工は竹中工務店、基本デザインを隈研吾建築都市設計事務所が担当した。塔状比6を超える縦長の建物を、木造架構と鉄骨フレームのハイブリッド構造で実現するプロジェクトだ。日没後は建設中の建物をライトアップし、天井の仕上げ材を兼ねたCLT(直交集成板)合成スラブの柔らかな質感と、精緻に構築された木の柱梁が銀座中央通りに浮かび上がる。

 企画のスタートは2018年にさかのぼる。この年、経済同友会は、隅修三会長(当時)が中心となり、林業育成を通じた地方創生を唱える「地方創生に向けた“需要サイドからの”林業改革」の提言書を公開した。

 日本は、戦中・戦後の過度な森林資源乱用で森が荒廃したが、その後の植林活動が奏功し、国内の人工林は60年代後半と比較して約5倍に増え、主伐の時期を迎えている。地方創生には地域資源の有効活用が不可欠であり、非住宅建築にこれら国産材を積極的に利用することで、供給サイドの生産性向上やコストダウンを促し、林業の成長産業化と地方創生に貢献できるのではないか。ヒューリックはこうした社会的意義への共感とともに、木材のCO2の固定装置としての性質や、建設中の環境負荷軽減の視点から、木造の商業ビル開発に挑んだ。

 
2021年10月に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用促進に関する法律」が施行された。対象が公共建築物から、民間建築物を含む建築物一般に拡大。木造建築のさらなる普及に向けた国民運動的なさまざまな施策も行われる。同時に、国・地方公共団体と事業者による建築物への木材利用促進のための協定制度を創設し、協定を締結した事業者などに支援が行われる予定だ。また、農林水産省内に「木材利用促進本部」が新設された。
樹木の枝が重なりあうように木質ルーバーをあしらった外観
樹木の枝が重なりあうように木質ルーバーをあしらった外観

木造と鉄骨造の適材適所による合理的なハイブリッド木造建築

 「開発コンセプトは銀座の中心に森をつくる。銀座は日本を代表する商業エリアで、当社の最重点地域でもある。耐火木造の商業施設開発は容易ではないが、日本に現存する最大高の木造建築、東寺塔(五重塔・約55m)を超える木造ハイブリッド建築を銀座につくる意味は大きい」とヒューリック エグゼクティブフェロー兼ヒューリックプロパティソリューション 取締役副社長の浦谷健史氏は語る。

 開発に際して解決すべき課題は少なくない。その1つが建設費の増大だ。将来的には木材需要増によるコスト低減が期待できるが、現状に限って見ると、木造の大中規模建築はどうしても若干のコスト高になる。開発費用について、ヒューリックの考え方をうかがおう。

 「私どもは100%木造のこだわりはなく、鉄骨やコンクリートも適材適所で使い、構造で木材に置換できる部分の木造化を進めることで、経済的にも合理性の高い建築を目指している。

 『HULIC &New GINZA 8』では、木材活用の取り組みが評価され、国土交通省と東京都の補助事業に認定いただきコスト増の緩和を行うこともできた」(浦谷氏)。

 20年にヒューリックは、事業目標が未達の場合、利率が上がる社債「サステナビリティ・リンク・ボンド」を業界に先駆けて発行した。リンク債の設定の1つに5年以内の高層耐火木造ビルの完成があり、調達資金はその開発費にも充てられる。不動産デベロッパーの新しい取り組みとして、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資に関心の高い投資家からも高く評価された。

木材にはストーリーが宿る 木造建築のもうひとつの価値

 今回「HULIC &New GINZA 8」で使用したスギ材は福島県白河市産が多い。ヒューリックでは白河の森林組合と連携し、使用した分を現地で植林するという活動も行っている。

 「木造建築には、使った木材が育った歴史や産地の文化が宿り、産地のシビックプライドの醸成にも貢献できる。これは木造建築ならでは。健全な森林資源循環や国産材のサプライチェーン構築と同時に、都市と産地をつなぐステークホルダーの人的つながりも重要だと感じた」(竹中工務店 東京本店 設計部 設計第5部門・島田潤氏)。

 竹中工務店は進行中のプロジェクトを含め、20~30件の中大規模木造木質建築を手がけた実績がある。

 「HULIC &New GINZA 8」の防耐火性能の基本となる技術は、同社が開発した燃え止まり型耐火集成材「燃エンウッド」だ。従来の1時間耐火に加えて、18年に梁材の2時間の耐火構造部材の国土交通大臣認定を取得したことで、14階建木造建物が可能となり「HULIC &New GINZA 8」の計画は大きく前進する。同時にCLTパネルの準不燃材化する塗装の技術も導入された。

 「火災発生時、炭化の効果(燃えしろ層)と吸熱の効果(燃え止まり層)により柱・梁(荷重支持部)を火災の熱から守ることができる。木材は燃えやすい印象があるが、実際はゆっくり炭化する物性があり、適切な処理を施すことで都市部にも中大規模木造建築を実現することは可能」と島田氏。耐震性能は鉄骨造部分が担い、ハイブリッド構造の合理性が活かされた。
島田潤氏

 「今回のプロジェクトでは約300㎥の木材が使われているが、その約9割が構造部材。木材需要を高めるには、木を仕上げに使うだけでなく、構造材に用いることがポイントだと感じた」(浦谷氏)。JAS構造材は、強度性能等が明らかであり、主要構造物への利用が容易になる。環境負荷軽減、地方創生、林業の再生。多様な課題解決にJAS構造材が果たす役割は大きい。
 

HULIC & New GINZA 8

銀座8丁目の銀座中央通りに面した一角に21年10月竣工予定。「木材は重量がコンクリートの1/5と軽い。基礎工事の軽減やタワークレーンの小型化、騒音が少ないなどのメリットもあり工期短縮も可能なのも木造建築の期待される特徴だ」(島田氏)

 


 

高層階(10・11階を想定)の内観断面パース


低層階(2・3階を想定)の内観断面パース


工事中内観写真
 

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